hazardstatementのあれこれ(1)

今回はDITA 1.2から導入されたhazardstatementについて書きたいと思います.hazardstatementは日本語で言えば「安全上の注意」です.様々な製品のユーザーズマニュアルに、ユーザーに危険を知らせるために書かれている文章があります.例えば

「濡れた手でコードを差し込まないでください.感電の危険があります」

というような類です.大抵は表形式で書かれていて、「危険」「注意」「警告」などのシグナルワードと言われるタイトルの下に、その安全上の注意を示すアイコンと共に印刷されています.

ところが(あくまでも私の感触というか感覚で言えば)このhazardstatementは非常に重要な要素であるにもかかわらず、DITAではあまり使われていない感じがするのです.具体的に言えば、hazardstatementでなくnoteを使ってしまっています.では何故使わないのかというと、どうもこのhazardstatementは日本語の書き方にあまりマッチしていないように感じます.また組織のインフォメーションアーキテクトが必ずしもhazardstatementがDITAにあるのを知らない、知っていても内容の制約がきついので使わないのではないでしょうか?

まずhazardstatemenの構成を説明しますと、(DITA 1.2の記法では)

( (messagepanel) (one or more) then (hazardsymbol) (any number) ) 

です.hazardsymbolが上記で書いた安全上の注意を示すアイコンです.そしてmessagepanelは

( (typeofhazard) then (consequence) (any number) then (howtoavoid) (one or more) ) 

で、

・ messagepanel/typeofhazard でどのような危険があるのかを記述し、
・ messagepanel/consequence で危険の結果を記述し
・ messagepanel/howtoavoid でどのようにして危険を避けるのかを記述します.

を記述します.DITA 1.2の仕様書を読むとこれは国際規格に準拠したモデルであるとの記述があります.

3.1.4.1.1 hazardstatement

The <hazardstatement> element contains hazard warning information. It is based on the regulations of ANSI Z535 and ISO 3864. It enables the author to select the type of hazard, add information about the specific hazard and how to avoid it, and add one or more safety symbols.

以下が国際規格の概要です.

ANSI Z535


The ANSI Z535 standard comprises the following six individual standards:

ANSI Z535.1 American National Standard for Safety Colors
ANSI Z535.2 American National Standard for Environmental and Facility Safety Signs
ANSI Z535.3 American National Standard for Criteria for Safety Symbols
ANSI Z535.4 American National Standard for Product Safety Signs and Labels
ANSI Z535.5 American National Standard for Safety Tags and Barricade Tapes (for Temporary Hazards)
ANSI Z535.6 American National Standard for Product Safety Information in Product Manuals, Instructions, and Other Collateral Materials

ISO 3864

ISO 3864 specifies international standards for safety symbols. These labels are graphical, to overcome language barriers.[1] The standard is split into four parts:

ISO 3864-1:2011 Part 1: Design principles for safety signs and safety
ISO 3864-2:2016 Part 2: Design principles for product safety labels
ISO 3864-3:2012 Part 3: Design principles for graphical symbols for use in safety signs
ISO 3864-4:2011 Part 4: Colorimetric and photometric properties of safety sign materials
The corresponding American standard is ANSI Z535, which is incompatible with the ISO standard. ANSI standard ANSI Z535.6-2006 defines an optional accompanying text in one or more languages.

ANSI Z535はマニュアルなどでの実装方法が書かれているもので、対応するものはISOにはありません.従ってJISにもありません.ところがお客様にhazardstatementを提案してもどうもしっくりこないみたいです.

確かに

「濡れた手でコードを差し込まないでください.感電の危険があります」

はmessagepanelのコンテンツモデルに一致していません.書くとすれば

 <hazardstatement type="caution">
    <messagepanel>
        <typeofhazard>感電の危険</typeofhazard>
        <typeofhazard>濡れた手でコードを差し込まないでください.感電の危険があります.</typeofhazard>
        <howtoavoid>コードの操作は乾いた手で行ってください.</howtoavoid>
    </messagepanel>
    <hazardsymbol href="image/electric-shock.png"></hazardsymbol>
</hazardstatement>

になるでしょう.これは日本ではちょっと順番が不自然に感じられてしまうのです.そこで日本の資料を読んでみると次のようなものがありました.

例えば「日本機械工業連合会」の「取扱説明書の作成方法」を読みますと少し長いですが次のように書かれれています.(丸数字は私がつけたもの)


6.8.3 警告メッセージのデザイン及び配置
警告メッセージは一貫性をもってデザインしなければならず、また目立たせて際立たせなければならない。
警告メッセージの作成及びデザインでは、最大限の効果を実現するために、次の点を考慮しなければならない :
・シグナルワードから始める (6.8.6 参照)。
・テキスト及び / 又はイラストは必須のものに限定する。
・警告メッセージの場所、内容及び様式を 6.2 に従って目立たせる。
・使用中(6.2.5 も参照)及び適切な時点で、使用者及び他のハザードにさらされた人々が、警告メッセージをそれぞれの位置から確実に目視できるようにする。
・①ハザードの性質及び、該当する場合、その原因を説明する。
・②特定のハザードを回避する方法について明確な手引を提供する。
リスクアセスメントで決定したとおり、警告メッセージを設ける。警告メッセージは過度に繰り返されると、その効果が低くなることがある。
・③結果を軽視することなく、ハザードを回避しなかったことで考えられる結果を記述する。

①typeofhazard⇒②howtoavoid⇒③consequence の順です.つまりtypeofhazrdを略せば、「②濡れた手でコードを差し込まないでください.③感電の危険があります」となります.つまりhowtoavoidとconsequenceが逆です.

しかしANSI Z535-6 p.3には次のように明確に書かれています.

4.7 safety messages: Word messages that provide information ①primary about the nature of a hazardous situation , ②the consequence of not avoiding a hazardous situation , and/or ③method(s) for avoiding a hazardous situation, or that direct readers to such information . Safety symbols and other graphics may be used to supplement of substitute for part of all of a word message.

つまり ①typeofhazard⇒②consequence⇒③howtoavoid の順です.「②感電の危険があります.③濡れた手でコードを差し込まないでください.」です.

なぜこうなっているかですが、規格の専門家でないのでよくわかりませんが、 先にも述べたようにANSI Z535-6に対応する規格はISOにはないようです.従ってJISにもありません.という訳で日本ではANSI Z535-6 はあまり研究したり顧みられなかったように思えてしまいます.

まあそうは言っても、海外のマニュアルを見ていると明らかに安全上の注意であるにもかかわらず、ANSI Z535に依っていないDITAのインスタンスを目にしたことがあります.世の中そうストリクトではないのでしょうか?

<hazardstatement type="caution">
  <messagepanel>
    <typeofhazard>LASER RADIATION </typeofhazard>
    <consequence>DO NOT STARE INTO BEAM </consequence>
    <howtoavoid>CLASS 2 LASER PRODUCT</howtoavoid>
  </messagepanel>
</hazardstatement>


ANSI Z5353はWEBからANSIに申し込んでクレジットカードで購入しPDFをダウンロードしまし専用のソフトを介してAcrobatで見ることができます.ダウンロードしたPC以外では閲覧できません.ただし印刷は可能です.(厳しいことに誰がダウンロードしたものかも印刷されます)

ANSI Z535の概略をお知りになりたいなら、編者の一人が以下のサイトに概略を書いておられます.御参考にしてください.

ANSI Z535.6 and product safety

次はhazardstatementの運用について考えてみたいと思います.