「何が、会社の目的(ザ・ゴール))を妨げるのか」 エリヤフ・ゴールドラット

このところずっとエリヤフ・ゴールドラット博士の本を読み漁っていました.博士が最初に世に出した「ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か?」は1894年の刊より250万部売れたにもかかわらず、博士の意向により17年もの間日本翻訳が認められず、2001年にようやく邦訳が出版された有名な本です.

私は「ザ・ゴール」以来ずっと読んでいなかったのですが、たまたまAmazonで見ると「ザ・ゴール」はマンガ版も出ているは、またその後のシリーズも続々とでているので、「これは!」と思って3冊ほどまとめ買いしました.最初は、「ザ・ゴール2思考プロセス」(これは買ってあった)、「チェンジ・ザ・ルール」、「クリティカル・チェーン」、「ザ・チョイス」、そして「何が、会社の目的(ザ・ゴール))を妨げるのか」というところです.「何が、会社の目的(ゴール)を妨げるのか」は、いわばシリーズの総まとめのような本ですね.「ザ・チョイス」(これは実に難解)を読む前にこちらを読んでしまいました.

イメージ 1


ここで「何が、会社の目的を妨げるのか」は様々なインタビューや、論文、それまでの著作からの「至言」の数々で構成されています.改めて読んでみて、新たに感銘を受けた点、うなずいた点を紹介させていただきます.

---------------------------------------------------------------------------------------------
リストラは人間の尊厳を損なう(p.13)
私はかつて「Inc.」誌で国内成長率第六位にランキングされたハイテク企業の経営者でした.当然ビジネスの原則を受け入れています.そんな私が、何故リストラを深く憂慮するのか、その理由を説明しましょう.
私はイスラエル人です.国民の義務として十八歳から三年間兵役に就き、その後も四十二歳までは毎年、最低三十日間の兵役に就きました.業績好調な米国企業のトップだった私は、毎年その時期がくると、飛行機のファーストクラスでイスラエルに帰り、軍隊で二等兵としての扱いを受けたのです.
そんなコントラストが、人間という存在について深く考えるよう私を促しました.ある年、レイオフされて一年以上職を見つけられないでいる男と同じ兵舎に入りました.厳しい環境で寝起きをともにしながら、私はどれだけ失業が人を不安に陥れ、プライドを奪う、おぞましい体験かという事を理解しました.それ以来、私は感情的と言ってもいいほどレイオフやリストラを憎むようになったのです.
...
リストラの背後にある効率至上主義を問題にする声がありますが、私に言わせれば、効率を正しく追及すれば、むしろリストラの必要はなくなるのです.マネジメントが追及すべき優先順位を間違えるから、リストラに頼らざるを得ない状況に陥ってしまうのです.
私は終身雇用は日本企業の競争力の源泉の一つだと考えています.残念ながら日本企業はこの美徳を放棄しつつあります.従業員に忠誠を尽くさない企業が、従業員からの忠誠を期待することはできません.従業員の忠誠を得られない企業は顧客からも忠誠を得ることはできず、遅かれ早かれ、市場から淘汰されてしまうでしょう.
---------------------------------------------------------------------------------------------

至言です.これは2002年の博士のインタビュー記事です.博士がアメリカから母国に帰り兵役の義務を果たしていたことは、初めて知りました.それにもまして「私は感情的と言ってもいいほどレイオフやリストラを憎むようになったのです.」は強烈です.思い返せば著作の主人公の言葉の中にも、この考え方を如実に表す言葉が出てきていたのを思い出します.

---------------------------------------------------------------------------------------------
収益体制の改善を求められると、必ず最初に叫ばれるのがコスト削減、つまり人員解雇だ.馬鹿げている.すでに何千人も切ってダウンサイズしてきたではないか.脂肪だけでなく血や肉までも削ってきた.
...
組織再編という名目で行われている努力を、市場獲得のための努力に振り向けることができれば、我が社はもっと繁栄しているはずだ.
(ザ・ゴール2 思考プロセス p.8)
---------------------------------------------------------------------------------------------

次はコストダウンの一節です.

---------------------------------------------------------------------------------------------
「さっきのレポートに書かれていることなんですが、信頼できる業者よりコストの低い業者を選んでいるんです.それで、どれだけコストを節約できたと思いますか」私はなかなかな諦めなかった.
「そんなことを訊かれても......、五パーセントくらいかな.五パーセントよりずっと多いことはないだろう」
「プロジェクトの完成が遅れた理由ですが、実はコストの低い業者からの機会の納入が遅れたことが一番の原因だったのです.」
「なるほど君の言いたいことが見えてきたぞ」そう言うと、事務はフレッドのレポートを再び手に取り、しばらくの間じっくり目を通した.「なるほど、機械のコストは約五パーセント節約できたわけか.投資額全体からするとたぶん三パーセント以下だろう.この節約のせいで三年間でペイバックできるはずのプロジェクトが...」そう言いかけたとおろで、ジムは口を閉じた.
「たった三パーセント節約するために、せっかくのプロジェクトを台無しにしてしまった」私はジムの言葉を補った.
(中略)
企業はコストを削減することばかりに目を奪われて、重要なことを忘れている.プロジェクトの目的は、コストを減らすことではなく、お金を儲けることだということを.
---------------------------------------------------------------------------------------------

この例ではありませんが、私も今までいくつ見積もりをつらされてきたでしょう?一生懸命分析して見積もりを出すと、どうも単なる合い見積もりのためだけのもの.結局相手先からは断りの返事すらありません.中にはこうして低コストの別会社に発注して破たんし、結局私の会社に何年かたったら戻ってきた仕事もありました.その会社が「お金を儲け」られなかったことだけは確かでしょう.


私は「ザ・ゴール」信者ではありませんが、(イヤというよりそこまで理解していない、実践で検証していない)このシリーズにはビジネスマンとして知るべき多くのことが書いてあります.また紹介させていただきたいと思います.